vol.143 森村 ゆき

PARACUP世界の子どもたちに贈るRUN代表  URL:http://www.paracup.info/2009/

1974年神奈川県生まれ
約6年間不動産関係の会社に勤務した後、
東京マラソン事務局勤務。大会をを支えるボランティアを運営する仕事を行う。
2005年PARACUP世界の子どもたちに贈るRUN第1回目を開催
第2回目より代表を務める。

こんにちは。Cause熊坂です。今回お送りいたしますのは、PARACUP世界の子どもたちに贈るRUN代表、森村ゆきさんへのインタビューです。マラソンを通して世界の子どもたちに贈るものとは一体何なのでしょうか?今年(09年度)4月の大会では、3300名のランナー、500名のボランティアが集まったそうです。本インタビューではそんなPARACUPの魅力に迫ります。

マラソンには人それぞれのドラマと感動がある

大会のコンセプトである「分かち合う感動」について、教えてください

PARACUPを立ち上げたのは、2004年にホノルルで生まれて初めてのフルマラソンに挑戦したときの感動が大きかったからです。今、自分が感じているこの感動を、日本にいる多くの友人たちと一緒に感じたい。体を動かし汗をかくことから生まれるすがすがしさや、つらいことを乗り越えたときの達成感を分かち合いたい、とゴールした瞬間にしみじみと感じて、そのあとに、「それじゃあ、日本でそういう大会を作ろう!」という話になったのです。 実際、マラソンには人それぞれのドラマと感動がありますよね。マラソン当日のドラマとそれまでに積み重ねた練習の日々やから生まれるドラマ。これをランナー、ボランティアスタッフ、応援にきてくださった観客の方々、そして私のような運営スタッフが少しずつでも分かち合えたらどんなに素晴らしいことか。ただただ長い距離を走ることだけに意味があるわけではなくて、そこから生まれる何かを分かち合うこと、それをパラカップは大切にしたいと思っています。

森村さんがホノルルを走ったときにはどのような感動があったのですか?

大変お恥ずかしながら、大会前にあまり練習ができなかったせいで、ホノルルはとっても苦しかったです。最後は足が動かず、泣きそうになりながら走っていました。でも、いつの間にか感じていたのは、どんなに疲れても前へ前へと踏み出し続ける自分の足への感謝と、つらいことでも乗り越えられるよう育ててくれた、仲間や仕事の先輩、そして両親への感謝でした。ゴールしたあとに一緒に走った仲間たちとそんな気持ちを興奮しながら分かちあったことを今でも良く覚えています。

もうひとつの大会コンセプトの柱である「喜ばれる喜び」について教えてください。

PARACUPの収益はすべて世界の恵まれない子どもたちに贈られます。参加者の方々が過ごした楽しい一日は、世界のどこかで恵まれない子どもたちに未来を切り開くきっかけを与え、彼らを笑顔にすることに繋がっています。参加者の方々からは、このことへの共感をいただくことがとても多くて、わたしたちはどうしてみんな、これほどまでに人のために何かをやることができるのだろうと自問自答してきました。 そこで出た結論が、「人間には、誰かのために何かをすることによって、その人が喜んでくれたら、自分たちも幸せで嬉しい気持ちになるという本能があるのではないか」ということでした。そのことを私たちは「喜ばれる喜び」と名づけました。PARACUPへ参加すると「喜ばれる喜び」を感じられる。そういう大会にしたいと考えています。

具体的にはどのような形でコンセプトが大会作りに生かされているのでしょうか?

「分かち合う感動」と「喜ばれる喜び」をどのように生かすかということについては、現在も模索中ですが、今のところ最も評判が良いのが「ハイタッチ」と「ニックネームラン」です。 思いや感動を参加者同士で分かち合ってもらいたいとか、お互いの感謝の気持ちをあらわすと良いとか言ってみても、どこまでいってもマラソン大会ですので(笑)、立ち止まってゆっくり話をしてもらうわけにもいきません。そこで、マラソン大会らしく、一瞬のコミュニケーションに託すことにしたんです。
まず、「ハイタッチ」ですが、ただ、声援をおくったり旗をふったりするだけの応援よりも、手のひらをパンッと合わせるこの一瞬のコミュニケーションには、実はいろいろな思いをこめることができて、すごい力があるんですよ。体験したことがある人はわかるかもしれませんが、へとへとに疲れていても不思議なことにグッと力が湧いて元気になります。なぜか笑顔も出てきます。 また、ハイタッチをする際には必ず目もあいますから、なにがしかの表情が伝わりやすく、表情には万感の思いがにじみでていますから、感動の分かち合いがここで一つ生まれます。 ボランティアスタッフがランナーにハイタッチをするときなどは、目の前のランナーがにわかに元気になったり、笑顔になったりする姿を目の当たりにするわけですから、まさに喜ばれる喜びを感じる機会にもなるんですよ。
次に「ニックネームラン」ですが、PARACUPではゼッケンに大きな空欄があって、ランナーはそこに「沿道の方々に呼んでほしいニックネーム」を書けるようになっています。 それを見た人は、知らない方だったとしても大声でその名前を呼んで応援してもいいというルールを作りまして、大声で名前を呼んでの応援を奨励しているんです。 沿道で応援する人としても、そもそもどう声をかけたらいいかわかりません。「そこの1024番の方、がんばってくださーい」とおずおず声をかけるより、「ゆきちゃん、がんばってーーーーっ!!!」のほうが言ってて楽しいし、そういうルールなので(笑)、どう声をかけたらいいかと迷ったりしなくてすみます。一方で、声をかけられたほうとしても、知らない人から名前で呼んで応援してもらえるなんて有名人でもない限りはあまりない経験ですから、とっても嬉しい。つい振り返って笑顔で手をふったりしたくなったりします。

マラソンだからこそ感じられることがある

走ることの楽しみ、醍醐味は何でしょうか?

まず、誰もが参加できて達成感や感動を感じられることだと思います。 走ることは他のスポーツに比べてシンプルなので誰にでも始めやすいですよね。フルマラソンは距離が長いので練習をしないと大変ですが、ゆっくり走れば誰でも完走できます。結果として大きな達成感や感動を得ることができるんです。 また、たくさんの人と一緒に走ることも醍醐味のひとつだと思います。 私は東京マラソンの仕事をしていたのですが、この大会、3万5000人が走りますよね。1つの競技に3万人も出場する。すごいことだと思いませんか?ほかのスポーツではちょっとありえない。マラソンは個人種目と思われがちですが、1試合に10人前後しかレギュラーで出られない球技などのスポーツに比べると、極端に多くの人と一緒に競技をすることができる。スピードやタイムは違うかもしれませんが、高橋尚子選手や野口みずき選手とだって一緒に走れるんですよ。トップアスリートと一緒に、同じ景色を見るということは、他の競技ではまずできないなと。

3000人が参加する一大マラソン大会に成長

PARACUPはホームページが格好良いですよね、今回は3000人のランナーが参加されたとか・・・。2005年から数えて今回が第5回。参加者にとっての魅力とは?

ありがとうございます!参加枠は毎年増やしています。5年目ともなり、ようやく多くの人に存在を知ってもらえるようになってきました。参加した多くの方がおっしゃっているのが、「手作り感」と「あたたかみ」のある大会だという声です。応援が盛況でボランティアスタッフの皆さんがとってもホスピタリティーあふれていて暖かいこと。また、ゴール後に子供たちからの手作りの首飾りを参加賞としてもらえるのですが、そのあたりのイメージが定着してきたのでしょうか。それが嬉しくて毎年参加しているという声も聞きます。

フィリピンの子供たちが作っているという首飾りですね。3000個作るのはすごいですね、子供たちもうれしいですよね?

子供たちは楽しんで作ってくれているようです。彼らは彼らで毎年たくさんの人に応援してもらっていると感じていて、何か少しでも恩返しをしたいと言ってくれています。昨年、彼らが首飾りを製作中の映像を送ってもらったんですが、歌を歌ったりしながら楽しそうに作ってくれているんですよ。

参加者だけでなく、ボランティアも500人集まるとか?気軽に参加できるんですか?

はい。受付、給水、応援、ゴールで首飾りをかけるなど、沢山の活動がありますが、どれも楽しく気軽にできます。ボランティアさんの中には昨年はランナーだったから、今年はお礼にボランティアをやりましたとか、逆にボランティアで応援していたら走りたくなったので来年はランナーやりますとか、いろいろな方がいらっしゃいます。マラソンになじみの薄い人も多いので、「なんだ、あんな感じで良いんだ!」と触発されて走り始めるみたいで、そういう話を聞くと嬉しいですね。

「リアリティのあるチャリティ」

さまざまなマラソン大会があるなかで、パラカップならではのことは何ですか?

こうなったらいいなと考えているのが、チャリティに実感とか手触り感を感じてもらうことです。私たちはリアリティのあるチャリティーを目指してます。 PARACUPに一日参加しただけでも、自分が誰かのために何かをしているんだということが実感できるようにしたいんです。たとえば自分がしたことで誰がどうなったかを知ることができるとか。誰かが喜んでいることが伝わるとか。 例えば私たちは、PARACUPの収益金を毎年現地に届けに行ったりもしています。大会当日はそのときの様子をパネルで展示したりして、できる限り参加者の方々に支援先の子どもたちの感情なんかを届けられるように工夫しています。ほかにもPARACUPの距離表示は現地の子どもたちの写真だったりするんですよ。支援先の子どもたちに応援される。そんなことがあってもいいじゃないですか。 そして、その結果、世界の子供たちのために何かができたことを、頭の片隅にでも残して帰ってもらえたら、本当に嬉しいですね。こういうことが何かのきっかけになって、別の何かが生まれるかもしれない。そう考えるとワクワクします。

世界一のチャリティマラソンにしたい

活動を通して実現したい目標はありますか?

世界一のチャリティマラソンにしたい、そんな夢を描いています。世界一の定義はいっぱいあります。ロンドンマラソンはチャリティの収益額が一番大きい大会です。規模は東京マラソンと同じくらいですが、仕組みが整っているんですよね。ロンドン市民にも歓迎されていますし、チャリティーが文化として根付いているようです。私たちはこれからPARACUPが目指す「世界一」の姿を描いていこうと考えていますが、それはできる限り質的な世界一と量的な世界一のバランスがいいものでありたいと思っています。「世界一、子どもたちから喜ばれる大会」とか。でも、どうやって世界一を決めるのかわかりませんけどね(笑)

実際に現地でお金を渡すときの感動は大きいでしょうね?

それは本当に大きいですね。昨年はパラカップの映像を編集して当日の様子と一緒に届けたんです。自分たちが作った首飾りが参加者に渡ったところの映像では、大歓声が起こりましたよ。みんな大はしゃぎ!マラソンの参加者に子どもたちのことを伝えるのも大切ですが、支援先の子どもたちに、日本でこんなたくさんの人たちがあなたたちのことを応援しているんだよ、ということを伝えることは彼らの人格形成にとっても大きいと思っています。

パラサイヨに携わるまで社会的なことは考えなかった

ソーシャルモチベーション、社会的なことを考え始めたのはいつから?

結婚するまではまったく興味がありませんでした。2003年頃に夫が活動をしているパラサイヨという団体(PARACUPの主催団体)に出会ったのがきっかけです。夫はパラサイヨに関わる前から、開発経済学を勉強していた人です。夫の恩師はとても面白い方で、スラムの貧しい家庭にホームステイさせるなど、学生たちに現場と関わる機会を沢山くださる方だそうです。彼は社会人になってからもフィリピンでスラムの子どもたちを支援する基金を立ち上げたり、パラサイヨにも参加して活動を続けたりしていて、私が夫と出会ったときも、「どこどこに送金する」とか言っていたので、わたしは「いいように使われているだけじゃないの」とか、「日本にも困っている人いるじゃん」と、ありがちな突っ込みを入れていましたね。(笑)

意外ですね!

ただ文句ばっかり言っているよりも、1回行って、自分で実際体験してみるのがいいと、パラサイヨのツアーに参加しました。そこで、楽しみながら人のためになることをやることの素晴らしさを感じて、活動を始めたのがきっかけです。 そのとき会ったパラサイヨのメンバーはみんなバリバリ仕事をしながら、一方で休みの日には楽しそうに活動をしていたんです。当時の私は「仕事ができようになることが人生の成功だ」と、ほとんど休まず働いていました。会社で表彰をされたり、実際に仕事ができるようになっていく自分を、成長していると思っていました。 でも、パラサイヨのミーティングに誘われて行って、彼らの活躍ぶりや現地の映像などを見ていたら、なぜかわからなかったんですが悔しくて涙が出てきました。「こんなことをしている人たちもいるんだ。」とショックをうけて、私には足りないものがあるんだと感じて。それから4ヵ月後には会社を辞めていました。

早すぎる!

他にも理由はありましたが、社会貢献のための活動だとか、自分の好きなことに費やせる時間を作りたいと思ったんです。その後、東京マラソンのスタッフ募集をしているからやりませんか?と誘われ、笹川スポーツ財団に入社しました。そのときはそんなに大きな仕事だとは知らずに・・・。マラソン運営の勉強になるかもと気軽な気持ちで。入ってみたら、びっくりでした!

最後に座右の銘をお願いします

きれいな言葉にはまとめられませんが、「行動すること」です。 行動すると見える世界が広がります。悩んだり考えている暇があったらまず行動してみる。わからないなりにやってみると、思っていたよりも、いろいろなことが見えてきます。マラソン大会も、はじめは何もわからず大変でしたけど、始めてみたら協力してくれる人が出てきて、世界がどんどん開けていきました。 第一回目のPARACUPのときに、オリンピック銀メダリストの有森裕子さんからいただいた言葉で、「できる人が、できることを、できる力で」というものがあります。 どんな小さなことでもいい。まずはできることを始めてみればいいと思っています。

Word of power

●マラソンには人それぞれのドラマと感動がある
●収益はすべて世界の恵まれない子どもたちに贈られます
●「分かち合う感動」と「喜ばれる喜び」

PARACUP世界の子どもたちに贈るRUN、代表森村氏へのインタビュー記事は以上になります。次回もお楽しみに。

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