vol.060 岩切準 / Iwakiri Jun

特定非営利活動法人 夢職人代表理事  URL:http://yumeshokunin.org/ 

1982年
東京生まれ、下町の江東区育ち。東洋大学大学院社会学研究科社会心理学専攻修士課程修了。NEC社会起業塾第6期(2007年度)修了。江東区立第五大島小学校評議員。人情に溢れる東京の下町に育ち、高校時代は地域の子ども会活動をサポートする「ジュニアリーダー」に従事。
2004年
大学時代に教育、福祉、心理に関する様々なNPO団体で活動経験を積み、大学在籍中に「夢職人」を設立。
2008年
法人化し、「特定非営利活動法人夢職人」の代表理事に就任。現在に至る。

こんにちは!テトルの本村拓人です!! ついに最終回となった 自らの組織を「プラットフォーム」として、多くの子どもたち、 あるいはそれに関わる大人たちの成長を見続けてきた岩切さん。 「オープンソース」での育成法をお話しいただきました。 最終回となる今回は、今後の夢職人の未来について、 岩切さんが語り尽くします。 米国の教育NPOとして成功した「ティーチフォーアメリカ」。 日本においても、このような成功例は今後のNPO活動にとって、 大変大きな励みになるといいます。 夢職人は、これからどんな広がりを持たせていくのか―― ワクワクするような可能性について、お話しいただきました!

教育現場からの評価が高まる夢職人

どのようにこれから夢職人を運営されていきますか?

これまで紆余曲折しながら、モデルづくりに取り組んできました。私たちの取り組んでいることは、自分たちの地域だけの問題ではありません。そして、私たちだけで解決をしていくことのできることでもありません。

同じような志を持ち、必死にがんばっている団体さんがあります。そのような団体さんと手を取り合いながら、波紋のように動きを展開させ、子どもや青少年が心身共に豊かに成長できるソーシャルキャピタルを築いていきたいと考えています。

私たちのやっていることは、端的に申し上げると環境づくりです。近年、学校ばかりを非難する人がいますが、どんなに良い学校づくりだけをしてもけして、状況は変わらないと思います。 なぜならば、学校というのは、コミュニティのうえに成り立っているからです。これまでも色々な学校や地域をまわらせていただきましたが、コミュニティ自体の状況がうまくいっていない中、学校だけがうまくいっているところを見たことがありません。

子どもや青少年の問題に直面するとすぐに「専門機関の充実を!」という人がいますが、それは違います。確かに、子どもたちを取り巻く、教育、福祉、心理などの専門機関の充実は大切ですが、根本的な土壌が育っていない限り専門機関の機能も十分発揮されないのです。

農業には、「リービッヒの最少律」という法則があります。植物の成長速度や収量は、必要とされる栄養素のうち、与えられた量のもっとも少ないものにのみ影響されるとする説です。植物の生育は最も不足する栄養分に左右されるため、最も不足する栄養分を施さない限り他の養分を施しても植物の収量はよくならないということです。これは、正に私たちの社会にも同じことが言えます。

本当に子どもや青少年の問題について、予防的な土壌が育てることができれば、専門的な機関は縮小し、国家のコストとしても必ず安く済みます。いつまでも対処療法的な対応をとっている限り、負の循環は、悪化していくだけだと思います。社会教育の持つ可能性は、現代においてとても重要な位置を占めていると思います。

水平的な展開とは別に、垂直的な展開も必要です。前回のお話でも申し上げましたが、地域教育の分野は、安かろう悪かろうというイメージがとても強いのです。それでは、ダメなのです。より効果的なプログラムは、何なのかを追及していく必要性があります。

これは、水平的な展開とも大きく関係してきます。今、子どもの共感性を育むプログラムを展開し、世界的な注目を集めているカナダのルーツ・オブ・エンパシーがあれだけのスピードと規模で展開できたのは、プログラム開発の初期の段階で大学と連携し、本当に変わるということを可視化して示している点がとても大きいと思います。良いことをやっているというだけの域では、物事は変わりません。実際の変化を目に見える形で示さなくてはならないと考えています。

周囲は、どのように評価をしていますか?

夢職人に対して、教員や児童指導員、保育士など子どもの分野における専門家の方が支援をしてくれています。先に述べたような方向性に対して、強く共感をしていただけているからこそ、このような方々がいらしていただけるのだと思います。また、「夢職人の子どもと関わるスキルはかなり高い!」という評価を受けており、専門家の方々も現場を見て、驚かれます。

学生や社会人の中には、教員などの子どもに関わる専門分野を目指している人がいます。現場の第一線で活躍されている方々の話を聞いてみると、最も重要なのは、実際に子どもに対してきちんと指導や助言をし、関わり合うことのできる力だと言われます。

試験に合格するだけのスキルを身につける場は、たくさんあります。しかしながら、夢職人のように継続的に子どもと真剣に関わり合える場というのは、数少ないのではないでしょうか?夢職人から巣立った大人が専門的な支援を行う職につき、現場を盛り立てていってもらいたいとも思っています。

子どもと関わり合う職は、多様性に乏しく、とても閉鎖的な状況にあると思います。先生になったらずっと先生という時代ではなくなってきていると思います。新しい要素を持った人材が適度に流入していくことによって、色々な現場に変化が生まれるきっかけになります。

しかしながら、新しく入ってきた人は能力があってもほとんど裁量権を持たないので、なかなか環境に変化を生み出していくことは、難しいことだとも感じています。すでにアメリカでは、ティーチフォーアメリカ(米国のNPO・一流大学を卒業した中でもさらに優秀な若者に一定の研修を行い、貧しい地域のパブリックスクールに送り、2年間の期間で教師として活動させるプログラム)が驚くべき実績をあげています。今後、日本でもそのような潮流は、必ずやってくると思います。

確かに多様性は、今求められているところですね。岩切さんが組織をプラットフォームとして例えられていたのは、すごくわかりやすかったです。

一般的に、均一のものを提供していると考えられている公教育の世界でも、格差は生じています。どこに住むかによって、受けられる教育が異なるのは事実です。

それぞれの市区町村の持つ予算額が異なるのだから当然です。現実は、誰しもが同じ教育機会があるわけではありません。それを誰が補っていくのかということを考え、行動を起こしていかなければなりません。

その答えは、きっと遠いどこかの国の事例ではなく、目の前にある地域社会のリソースを活用していくことなんだと思います。子どもや青少年の支援に潜在的な地域社会の力を結びつけていくことは、これから扉を開いていく重要な鍵となると思います。まずは、評論家ではなく、この分野に参画する当事者意識を持ったプレイヤーを増やしていこうということです。フローレンスの駒崎さんとやっていることは違いますが、考え方は同じだと思います。同じ江東区出身というのも驚きです!(笑)

民間でこれだけ教育をやろうというのはあまり見たことが無いです。過去にインタビューした三鷹市にしても、杉並の和田中にしても公教育側からです。民間側でやっているのって本当に珍しい。

「私」と「公」は、対極にあるものですが、「民」と「公」はとても近い距離にあります。実は昔、日本にはコミュニティスクールが山のようにありました。地域の子どもを育てるのは、地域の責任だという意識が高かったので、多くの小学校、中学校は、地域の人たちがお金を出し合ってつくっていました。

日本にコミュニティスクールがないかと言えば、たくさんあります。学校選択制などで地域と学校の関係が希薄化し、そういった意識も希薄になってしまったのかもしれません。大阪の多くの橋も商人たちがお金を出し合って作っているわけです。もしかしたら現代は、「公」と「民」を切り離し過ぎているのかもしれません。変に行政任せのところも多いですもんね。

資金面や人材面などで、運営の立場として抱える 課題は何かありますか?

正直申し上げて、課題は山積しています。一番は、先ほども申し上げた通り、資金面です。世界中の教育系NPOの財政基盤について、色々と調べてみましたが、完全事業型でのモデルは、今のところ見あたりません。

個人や企業のスポンサーによる援助によって成り立っているケースがほとんどだと思います。企業も捻出する金額のケタが数え間違えたかと思う位の金額で援助をしています。特にうちのようなプラットフォームづくりをやっているところは、資金のやり繰りに苦労されているところが多いと思います。ビジネスのノウハウとスピード感を持って、一緒になって考えていただける方が必要だと感じています。

それは別に専任ではなくて月一回、週一回とかのアドバイザーとしての役目でもいいのですか?

ビジョンに共感していただけて、建設的な意見をいただける方なら大歓迎です。できない理由を述べにくる人は、たくさんいますが、なんとかこれを成立させようと前向きに議論してくださる方は、数少ないです。私たちは、現場のことに関しては詳しいのですが、マネジメントに関する専門的なノウハウは、ほとんど持っていません。

教育、福祉、心理 に関する専門書は、山のように読んで勉強してきましたが、まさか自分が経営的な役割を担うなんて全く思ってもいなかったので、これまで経営に関する本など読んだこともありませんでした。はじめのうちは、ビジネスの言葉が全くわからずとても苦労しました。団体の経営をしていくうえで必要なことですので、一生懸命勉強しています。

それはいつ頃からですか?

もちろん、団体をはじめてからです。(笑)

ビジョンの達成は、1日にしてならずですから組織を継続し、事業を発展させていくためのノウハウがビジネスの世界には、凝縮されているわけです。自分で考えて試行錯誤することも大切だとは思いますが、ビジネスについて学んだ方が手っ取り早いと思いました。

ビジネスの手法は、営利の世界のみならず、非営利の世界でも大きく役立つものだと思います。色々なビジネス的な手法を持った方と一緒になってやれたら、もっと加速していけるのではないかと思います。

岩切さんとしてどういう考え方で、企業やメディアと付き合っていこうとお考えですか?

企業は、子どもや青少年の成長を支える重要な主体だと考えています。近年、キャリア教育の動きが活発化しています。子どもたちが実社会につながっていくうえで「働く」ということについて考える機会はとても重要です。

その場を作る上で、企業との連携はとても重要です。企業は、その道のプロですから。江東区には、大人気のキッザニアがあります。キッザニアのおもしろさは、実際の企業が参画している点です。キッザニアの運営会社だけで作ったらあそこまでの臨場感は出なかったと思います。でも、本当はキッザニアに行かなくても、地域にはリアルな社会が広がっているわけです。町中がキッザニアのようになったらとってもワクワクしますね。

私たちの視点でできることと、できないことをわかることはとても重要です。足りない部分は、様々な組織主体と連携した方がはるかに良いものができます。

できないことがわかるということは、逆にできることもわかるということですよね。

そうですね。どちらかと言うと、できることとできないことという切り口よりも、何に対してこだわりをもっているのかということが明確になっていることが重要だと思います。

ぶれちゃいけないのはビジョンとミッションだけであって、手段や方法は柔軟性を持って、いかようにでも変化していけば良いと思います。目指すところに向かって、失敗を繰り返しながら、手を変え、品を変えというところです。

例えば、先ほどのキャリア教育の話でいくと、「働く」ということに対しての興味・関心を高め、実感を持ってもらいたいということが目指すところだったとします。

夢職人は、子どもたちに対するファシリテーションのスキルや子どもたちにとって魅力的かつ学びのあるプログラムを構成していくことが得意なわけです。でも、小売業の方よりもリアルに物を販売することの魅力を伝えることはできないし、農業をやっている方よりも農作物を作ることの苦労を伝えることはできません。NHKで「課外授業 ようこそ先輩」という番組があります。あれだけおもしろい授業ができるのは、出演されるプロの方と番組の製作者サイドが一緒になって作るからおもしろいのです。どちらかだけで作っていたらけして良いものはできないと思います。

自分たちが持つリソースを囲い込んだり、自分たちだけでやろうするのではなく、他の持つリソースとかけあわせることによって、よりビジョンやミッションの達成に近づくことができるのです。それは、組織と組織という構図だけでなく、個人と個人も同じです。夢職人で行われているプロジェクトを見ていて、よく思います。「人と人とを結び、共に新しい地域社会を拓く」ということは、そういうことだと思います。

忘れてはならない夢職人としての信念・志

最後に、「夢職人」という言葉自体に興味を持っていて、なぜこういう名前にされたのかと、岩切さんにとって「ボランティアとは?」というのを伺いたいのと、最後に読者に対してのメッセージの三つをお願いします。

夢職人という名前は、「夢」がビジョンを象徴する言葉、「職人」が実直さや信念を象徴する言葉でその2つの言葉をかけ合わせたものです。どんな逆境に置かれてもビジョンの実現に対して、実直に信念を持って取り組み続けていきたいと思い、この名前にしました。

特に「職人」という言葉は、活動の原点である下町を象徴する言葉であり、古くから人情を大切にしてき町です。自分達の原点の想いをいつまでも忘れぬようにという想いも込めました。

自分たちが夢職人であり続けることはもちろんですが、子どもたちにそうあって欲しいと思っています。ただ単に団体の名前ではなく、一つの生き方なのです。

みんなに夢職人になってほしいということですね。

そうですね。松井やイチロー、中田選手がかっこよく見えるのも、彼らが夢職人だからなんだと思います。どんなにつらいことがあっても必ずやりぬいています。使命を全うしている人は、本当にかっこいいと思います。

ボランティアについてですが、私は、仕事をするということと、あまり変わらないと感じていて、「志や想いを実現する」一つの方法だと感じています。

いつも私がもったいないなと感じるのは、「ボランティアだとかっこ悪い」、「成果が出ない」だとか、「適当だ」と思われているところです。多分ボランティアの悪いイメージなのでしょうが、ぜひ、これを払拭したいです。結局、収入がついてくるか、そうでないかの差なのです。

「仕事」と「ボランティア」を相反するものと捉えるのではなくて、私は一つものだと感じています。NPOでなくてもひとりひとり人間がビジョンやミッションを持っており、そのビジョンやミッションを仕事や家族で達成する方法もあれば、ボランティアでやり遂げる方法もある。自分の持つビジョンやミッションを明確に描き、それに合った生き方をすれば、きっと素晴らしい人生が送れるのではないでしょうか?

何かに取り組みたいな人がいたら、まず一歩動き始めた方が良い!成功の反対が失敗というのは嘘で、成功するまでのプロセスの中に何回か失敗があります。

成功の反対は、何もしないことです。これが一番最悪です。何もしないことには、自分のビジョンとかミッションも絶対動きません。「Why not?」(なぜやらないのか?)と自分に問いかけてもらいたいと思います。

私は、反骨精神という言葉が好きで筋が通らないことが大嫌いです。昔からずっとそんなんだったから"悪ガキ"にもなっちゃうわけです。(笑)世の中の矛盾だとかおかしいなと思うことに気づいてしまった責任があるわけです。それって運が良いのか悪いのかわかりませんが、きっと導かれているのだと思います。きっと、人生に問いかけられているのです。

何もいきなり起業する必要も、仕事を辞める必要もありません。今ある団体を「俺が押し上げてやる!」というような人も必要です。「あ、これだ!!」と共感できるところがあればそこに飛び込んでみたら良いと思います。一枚の扉を開けば、必ず次の扉へとつながっていきます

。 いきなりゴールを目指すのではなく、自分なりに一歩一歩行動していく。それが大切なことだと思います。

Word of power

●当事者意識を持とう!!
●ビジョンとミッションはぶらすな
●自分なりの一歩一歩の行動

以上で岩切さんのインタビューを終了いたします。

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