vol.133 渡邊 奈々

 

こんにちは! Causeの井上晶夫です!! 全4回でお届けする渡邊奈々さんへのインタビュー。今号は第4回目、いよいよ最終回です。 もし、「チェンジ・ザ・ワールド」と、力強く話す人に出会ったら、その言葉にどんな反応をすればいいのでしょうか。彼らは、「世界から紛争をなくす!」「貧しい子供たちに勉強を教える学校を世界中に設立する!」「貧困層に無担保でお金を貸す銀行を作る!」といったことを、真顔で語るのです。「それって本気で言ってるの?」と問い直したくなるようなことを、真顔で。 しかし、実現不可能な理想のようなそれらの言葉に、「確かにそんな世界になれば、すばらしいだろうな」と共感する部分もあるのではないでしょうか? その共感する気持ちを強くすることは、チェンジメーカーになるための第一歩。 今号では、渡邊さんから共感する態度と、最初の第一歩を踏み出す方法について、おうかがいしました。

アフリカの飢餓の子供たちに揺さぶられる繊細な心

たくさんの社会起業家にお会いになっている渡邊さんですが、書物などで触れることと、直接会うことの違いを感じることはありますか?

私が直接会いに行く理由は、本で読んだり理論を学んだりしても、ピンと来ないからなんです。本で読むほうがより深く理解できる方もいると思います。それはその人に依ると思います。私の場合、論理的な思考力より感覚からの理解が勝っているようです。 そもそも、写真を撮り始めた理由は感じたことを目に見えるかたちで表したいということだったのだと思います。 インタビューには、その方についての情報等余り調べないで行きます。実際にお目にかかって心のピントが合うと、奥深くまで理解できるという特徴が私にはあります。私が興味があるのは、活動の詳細より、その人の心の成り立ち方みたいなことですから。言葉で書ける詳細は後から調べ、パズルのようにいれこみます。

おのおのが理解しやすい方法を選べばいいということですね。

各人が、より感じやすい体験ができるものを選んだほうがいいでしょうね。人は心の奥深くで感じたことが巨大な力になっていくと思います。そのためには、論理より、もっと直接的な体験のほうがいいのではないかと私は思います。

心で感じるための秘訣はありますか?

パッションは運動神経など他の能力と同じで、生まれつきのものだと思います。ただ、何かをきっかけに眠っていた情熱が揺り起こされるということはあるのではないでしょうか。

たくさんの社会起業家に会ってきた渡邊さんですが、彼らを改めて定義すると、どういう人々ということができるのでしょうか。

共通しているのは、すごく敏感な心を持っているということですね。人の痛みが分かる人たちです。たとえば、マンチェスター・ビッドウェル・コーポレーションを創ったビル・ストリックランド。彼はとてもデリケートな方です。デリケート過ぎると言ってもいいかもしれない。アフリカの子供たちが飢餓で苦しんでいる映像がテレビで放送されているのを観ると、彼はいても立ってもいられなくなるそうです。そして、"僕が何とかしなくちゃ!"って思ってしまうそうです。 映像を見て「自分には関係ない」と興味をそそられない人達も居ると思います。また、映像に打撃を受けても、その後TVを消して安眠できる人もたくさんいますね。。。敏感度はひとによって違います。 「そのときだけでも心が痛む」グループに属する人が一番多いのではないでしょうか。そうであれば、その心の痛みをエネルギーに昇華できると思います。

心優しい人たちのために、システムを作らないと

世界と日本の社会起業家のシーンを比べて、渡邊さんはどのような違いを感じますか?

日本と欧米は全く社会構造が違うので、比べることは難しいです。日本では、土壌が耕され、種が蒔かれ、芽が吹き出てきたところだと思います。あとは、陽の光と水が必要ですね。

渡邊さんはそのなかで、どういった役割を果たそうと考えていらっしゃるのですか?

『Pen』で連載をしたとき、それから拙書を上梓してから様々な反応があって、私はとても誇らしい気持ちになりました。実際に社会起業家としての活動をはじめた人も誕生したわけです。 『チェンジメーカー』に続いて、2007年『社会起業家という仕事 チェンジメーカーⅡ』を上梓したときも連絡をくれた人がいました。実際にチェンジメーカーになろうと活動をはじめた方からの連絡で、「2冊目の本を出してくれてありがとうございます。経済的にきびしくて、もうあきらめようかと思っていた矢先だったので、力になりました」とおっしゃるんです。あの方たちは今何をして何を考えているか気にかかります。今、日本の非営利に就職すると年収は300万円台くらいがふつうで、それより少ない場合もあるそうです。これでは、人間らしい暮らしは出来ませんね。 私は動揺しました。私は心優しい人たちにインスパイアを与えることはできたかもしれませんが、それによって彼らはもしかすると人並みの生活ができなくなってしまったのかもしれないのです。情熱がなければ何もできませんが、情熱だけで私たちは生きられません。悪いことをしてしまったと思いました。 インスパイアされた人たちが「社会を変える」仕事をして人間らしい暮らしのできる収入を稼げるシステムができたら良いと今は思っています。ピラミッドを創るような圧倒されるような作業だと思いますが、私たちには若い世代に対してそれをやる責任があると考えています。

システムを作るという部分について、もう少し具体的に教えていただいてもよろしいですか?

インスパイアされた人たちによって、小さなコミュニティはできかけています。でも、メインストリームが変わらないと何も変わらないというのが私の理解です。メインストリームとは大企業と政府のことね。彼らが市民セクターの創る社会チェンジに意味を見いだし、例えば週のうち1日でも2日でも、非営利団体のコンサルティングを行うとか、NGOにインターンを派遣するとか...いろいろなやり方が考えられると思いますが、そういった取り組みをする必要があると思います。営利企業と非営利組織の融合みたいなシステムが必要だと朧げに考えています。 それからいま、アショカ財団・日本支部の立ち上げを準備しています。引きこもりの問題、ホームレスの問題、鬱病の問題など、日本にも取り組まなければいけない問題が増えてきて、たくさんのイノベーターが求められています。だからこそ、アショカのバックアップが必要だと思います。 アショカの「若い時に変革の能力を養う」プログラムも立ち上げる予定です。これは、12歳から22歳までの若い人たちにソーシャル・ベンチャーを立ち上げる能力を訓練するプログラムです。彼らは失敗することも多いと思いますが、もう少し大人になってから再びより深刻な社会問題に取り組もうと思ったとき、失敗した経験が役に立ちます。若いときに学んだことは、大人になってからも忘れないですから。自転車のりはなるべく早く学んで、補助輪はなるべく早くとれるようにした方が良いでしょう? この教育プログラムは微妙で奥深く複雑な試みですが、ねばり強く進めたら10年後、日本はちょっと変わってくるかもしれません。困難な状況に突き当たったとき、しょうがないとあきらめてしまうのではなく、状況を変えようとする人がきっと増えてくる...それが私たちの希望です。

身の丈にあった、小さなことからはじめてみる

なにか、自分でアクションを起こそうと思っている人たちに、メッセージをお願いします。

社会を変えたいと思うことは大切ですが、解決すべき問題はそれほどたやすいものではありません。何百年もかけて改革すべきものである場合も考えられます。だから、大きなことにいきなり挑戦するのではなく、まずは身の周りの社会問題に敏感になることからはじめてはいかがでしょうか。人生をいままでよりも少しだけ、社会問題に寄り添わせるのです。 そのうえで、小さなスケールのことからはじめてみてください。たとえば、アショカの若者教育プログラムのひとつの例ですが、アメリカの13才の女の子が、おばあちゃんが入った老人ホームを訪ねたら、そこにいる老人が皆さびしそうに孤立していた。それを見た彼女は、ノートパソコンを持って行き、アドレスを開いてあげて老人たちが家にいる家族と話す時間を作ってあげたんですって。その後、彼女はクラスメートたちによびかけて皆やり始めたそうです。そして、この活動は大きなプログラムにまで発展しています。週に一度か月に一度そんなことをしてみる、それほど難しいことではないですね?

なるほど。そういったことからなら、誰にでもできそうですね。自分の心がキャッチしたことに、耳をふさがないことが大切なのですね。

紙に3つのボックスを書いて、そのうちのひとつに、自分の能力と得意なことを書き出します。もうひとつのボックスには、気になる社会問題を書き込むんですね。そして、残った最後のボックスに、そのふたつを組み合わせて何ができるかを書きます。そして、最後のボックスに書いたことを実行する。そんなシンプルなことでいいのです。 タイに住む男の子の話をしましょう。彼は、お父さんをハグしたいのですが、恥ずかしくてできません。タイは日本のように親子でもスキンシップが余りないそうです。それでね、男の子は工作が好きなので、いろんな動物のお面を作って、毎日ちがう動物のお面をつけてお父さんをハグするというゲームを考え出したのです。お面をつければ恥ずかしくないから。恥ずかしくてお父さんをハグできないという問題を、工作が得意という能力を使って解決したわけです。かわいいでしょ? 男の子のクラスメートも皆はじめたそうです。無理をせず身の丈にあったことからはじめるのが一番です。

Word of power

●より深く理解できる方法を選ぶ
●日本では、土壌が耕され、種が蒔かれ、芽が吹き出てきたところ
●シンプルなことでかまわない

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