vol.136 橋口佐紀子
ライター
橋口佐紀子
2004年、慶應義塾大学文学部卒業。在学時より編集プロダクションでアルバイトとして勤務し、同大卒業後、医療・介護を専門とした出版社に入社。医療系コンサルティング会社のライター・広報を経て、2011年より独立し、医療・福祉分野を中心にフリーランスのライターとして活動。著書に『医療を支える女たちの力』(へるす出版)。
『看護師になろう!』(日労研)が11年5月下旬に発売予定(ページ上部の写真)。看護師が全国的に不足しているなか、中学生、高校生に看護師という仕事の魅力を知ってもらうための書籍。
今回のインタビューは、医療問題をテーマに活動する橋口佐紀子さんの登場です。「医療を支える女たちの力」の著者として、さまざまなフィールドで医療に携わる女性たちをインタビュー。
医療という専門性の高い職種において、「なら自分で何とかしてみよう」と実際に行動に移した10人の女性を取材している。著者の橋口さんご自身が、医療系のコンサルティング会社にいた時から、ずっと出したいと思っていた1冊だったという。話を伺ってみる見ると、「自分自身がやりたいことをやる」という橋口さんには確固たる信念が―。
大学時代は文学部に入学し、文章を書く仕事をしたいと思っていました。「何が書きたいのか?」に対する答えは漠然としたまま、父親が病院に勤務していることもあって、医療・介護・健康を専門とする出版社に入りました。そこで担当したのが、病院経営に関する月刊誌の編集です。病院の医師や院長、事務長、看護師、あるいは医療関連の会社など、医療にかかわる人々から話を聞くなかで次第に医療のことがわかってきて、3年勤めた後、医療系のコンサルティング会社に転職し、そこでずっと出したいと思っていた本を出版しました。
今振り返れば、中学・高校時代、大学時代のこと、考えていたことが今につながっています。大学進学とともに鹿児島から上京したのですが、東京なら何かをやりたいと思ったときに実現しやすいと感じていました。中学から高校にかけて、音楽が好きでラジオで偶然耳にして気に入ったバンド、CDショップで試聴して気に入った曲など、スピッツなどのメジャーなバンドから、マスメディアには取り上げられないインディーズの音楽まで、新しい音楽を開拓しては、聴いていました。人によっては、「そんなアーティスト知らない」「何であの曲を聴いているの?」ということもあるでしょうが、メジャーでなくても、「好きなものを聴けばいいのに」と思っていました。「自分が好きならばそれでいいのでは」というスタンスでした。
大学時代は、売れる売れないに関わらず、良い音楽を広めたいとのコンセプトで、音楽に関する学生団体に所属しました。インターネットラジオ、ウェブ、フリーペーパーのほか、深夜枠で30分間のInterFMでの番組制作に携わりました。ゲストのミュージシャンを呼んで、その出演交渉や選曲など、ざっくりとしていましたが台本を書いて、企画しました。ただ、楽しい部分よりも、自分にはまだ非力な部分もあるなと感じました。キャリナビというNPO法人の活動にも携わりました。世の中にはいろいろな仕事、会社、組織があるのに、学生が就職活動をする際、仕事を選ぶ時には、知っている仕事しか選べない。自分が何に向いているかはわからず、色々な仕事があって、色々な大人との接点を設けるための活動でした。仕事をしている大人たちに、学生記者が取材し、ダイレクトに感じられるのがメリットでした。
医療系のコンサルには、4年間いましたが、肩書きとしては「コンサル会社」で、「会社のためのライター」で、会社のホームページやチラシの作成などです。医療法人や企業、自治体が経営する規模のある病院を対象に経営に関するコンサルティングを行うのですが、診療のなかに身まで踏み込んでアドバイスをするというユニークな会社でした。ただ、父親もそうですが、経営をやりたいというドクターは多くありませんし、そもそも経営について専門的に学んでいるドクターはほとんどいませんから、コンサル会社の存在意義があるのでしょう。ただ一方で、私が書くことは、クライアントに聞いたコンサルの成果などだったりして、「会社のための」記事で、自分自身の中にあった「ライター」としてやりたいという思いとは違っていて、「がんばって働いた!」というような満足感をなかなか得られませんでした。
「自分自身がやりたいこと」、「なりたい人になること」とは違うと感じ、待遇面や労働時間、人間関係もすごく良い会社でしたが、ライターとして独立しました。よく「仕事は楽しくない」と言われますが、私自身は仕事を楽しみにしたいと感じています。取材を通していろいろな人に会うと、エネルギーを感じますから。私が本の中で取材したのは、会いたいと思った人たちです。医者だけでなく、医療資格のない人ひともいます。医療は身近なようで、身近ではない。医療も介護もお金を稼ぐだけを目的に仕事をしている人はいなくて、心ありきで働いている人がいて、「この人がすごい」といいことをしている人に光を当てたいと感じました。
取材した10人の中には、医療ミスで息子さんを亡くしている医療事務の方がいます。はじめから病院がきちんと説明していれば、解けたわだかまりだったのに、病院が隠してしまうことで、院内から内部告発があり、結局は訴訟になりました。最初に病院がちゃんと説明し、誠実に謝罪してくれていたら、彼女自身も嫌な思いをしなくても済んだかもしれません。ただ、もともと医療事務として病院で働いていた彼女は、医師も看護師もがんばっていることを知っていましたし、また、息子さんの医療ミスのことを明らかにしてくれたのも病院で働いている医療者でした。そして、その後の出逢いの中で、現在は、安全管理を担うセーフティマネージャーとして、患者の相談や医療事故につながる「ヒヤリハット」に関する院内研修などを行っています。自分自身の息子さんの問題は通り過ぎていても、他人事にしないところが格好良いと思いました。
私の取材領域は、医療・介護が大きなテーマで、「月刊福祉」という介護業界の雑誌の対談記事や、「aigo」という患者さん向けのフリーペーパーのインタビュー記事など、医療関係の雑誌やウェブを中心に書いています。やはり、人に会って、自分自身が刺激をもらえるというのが、私にとってはとてもありがたいことです。コンサル時代に懇親会の場面などで自己紹介をする機会があり、そのときに私が考えていたのは、会社のためにではなく、フラットな視点、ニュートラルな視点で書きたいということでした。私の主張は、家族、患者、ライターの3つの視点を持って、医療情報の発信をすることです。そこの間に入れればよい。父親はいま、鹿児島の指宿市というところで神経内科で医師として働いていますが、医師不足で1人で勤務している状態。もう60歳も過ぎていますが、当直もしますし、当直がない日でも、もしかしたら病院に呼ばれるかもしれないからと、晩酌は控えているそうです。地域にとっては必要な「先生」ですが、家族としては無理をしないで欲しい。3つの視点の間にいる人間として、一般の人々に情報を届けるライターでありたいと感じています。
書籍で取材した女性は、女性ゆえのやりやすさ、やりにくさのどちらも感じます。結婚して引退する人もいますが、元看護師から会社を興した人もいて、大胆に色々なことができ、選択肢は逆に広い。インタビューした人の中で、印象に残った言葉で、「迫力をもって仕事をしているか」というのがありました。これは、フリーアナウンサーで乳がんになり、離婚し、支えてくれる家族がいなくなってしまったときに、「そういう人たちの支えになりたい」と、その後、乳がん患者の生活支援の会社を起業した人の言葉です。、大学病院にいた先生が開業し、自分より若い医師に頭を下げたりする。自分自身がやりたいことを他人からどう見られているかではなく、自分が貫くことに迫力があります。医療、患者、病院と色々と多面性があることを知れば、医療や健康の話も、知っておくことで確実にその人の人生設計にとって、問題が何か起こったときに慌てることはありません。間に立つ人間として、自分自身が受けた刺激、驚き、新しい情報を伝えていければと考えています。
「どれだけ迫力をもって仕事をしているか」
「反省はしても後悔はするな」
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Wrote 2012.01.13 << 前のインタービュー | 次のインタービュー >>