vol.022 水谷 孝次 / Mizutani Koji

水谷事務所代表  URL:http://www.merryproject.com/

1951年3月
名古屋市で生まれる。
1977年
日本デザインセンター
入社。
1982年
東京ADC賞(東京アートディレクターズクラブ)ポスター公告電通賞
1983年
水谷事務所設立。
2000年1月
ラフォーレミュージアム原宿とラフォーレ原宿館内を会場にした写真&ポスター展「Merry at Laforet 2000」を開催。
2001年4月
日英同盟結成100年にあたるこの年、ロンドンのセルフリッジ百貨店で行われた「Merry Tokyo Life」のメイン企画に抜擢される。
2001年9月
阪神大震災から6年。震災時に寄せられた支援に対する感謝の気持ちを、笑顔で発信する「Merry in KOBE 2001」を開催。
2003年2月
9.11から1年後のニューヨークでMerryを撮影。六本木とニューヨークをつなぐインスタレーションが開催された。
2005年3月
愛・地球博にて
「MERRY EXPO」開催。

こんにちは!テトルの本村拓人です!! 全5回でお届けする水谷孝次さんのインタビュー。 今号は第4回目をお送りします。 商業デザイン界のトップとして走り続けることをやめて、自らの原点に立ち返った水谷さん。お金のためではなく、地位も名誉もかなぐり捨てて、本当にやりたかったデザインに着手します。 水谷さんは、バブル期の喧騒の最中で怪物のような勢いでデザインをしていた頃を「仕事が楽しいとは思えなかった。成功したって感覚もまったくなかった」と振り返りました。ところがMerryについて語りはじめると、一人ひとりとの出会いを懐かしく思い出すように、目を細めます。 Merryを探す旅は、水谷さんに何をもたらしたのでしょうか。

笑顔そのものにどんどん近づいていった

水谷さんの「いい社会を作りたい」という思いと「Merry Project」は見事にリンクしていますね。

そうですね。でも、最初にラフォーレで行ったときは、ファッションや文化という背景も押さえようとしていましたから、そういう意味では、本当に個人の幸福に寄ったものではなかったかもしれません。

それが個人に収束していったのはいつ頃なんですか?

愛知万博でやった「MERRY EXPO」ですね。万博ですから、世界中の笑顔を集めようということになったんです。僕はファッションや若い女の子を捉えるのが得意だったから、その目線で行けば大丈夫だろうと思っていました。でも、そうすると、どうしてもフォトジェニック(※写真向きである人)を被写体に選んでしまうんですね。具体的に言うと、おしゃれな人やきれいな人。

でも、世界をまわるうちに、もっと人間に寄るべきじゃないの?気持ちに寄るべきじゃないの?と思いはじめたんです。それで背景やファッションを含めるのではなく、笑顔そのものに近づくようになっていったのです。

なるほど被写体もどんどん無差別になっていくわけですか

そうですね。やっていくうちに気がついたことは、過酷な状況に置かれた人ほど、とても素敵な笑顔を見せてくれるんですね。僕が外国に行くときには、コーディネーターの人がいて、「水谷さん、どんなところへ行きたいですか?」って聞いてくれるんです。それなりに準備しておかなくてはいけないこともありますからね。 もちろん、ファッションの学校とかに行けばきれいな子やかわいい子はいます。

でも、恵まれた環境のなかの笑顔ってどうもピンとこないところがあって、だんだん僕は「一番、最悪なところへ連れて行ってください。」と言うようになるんです。過酷な状況に置かれている人ほど、Merryが鋭いんですよ。

水谷さんに会えたことが、私のMerry

水谷さんの心を打ったのはどんなMerryだったんですか?

ケニアのナイロビにMerryを探しにいった時のことです。一番最悪のところに連れて行ってもらうわけですから、もうすごいところへ行くんですね。サバンナを行くようなひどい道を車で走って、ゴミの山と悪臭の充満するようなところへ行くんです。これはとてもじゃないけど、車から降りられないし、間違いなく赤痢になってしまう。そういうような場所です。

やせこけた山羊がいる路地裏に降りると、ワーッと人が寄ってきました。車から彼らの眼光鋭い表情を見ると、怖くて降りられないように思うんですよ。でもね、実際に降りてみると、印象はずいぶんと変わる。直接触れ合うと、怖くなくなるんです。 そこでひとりの女性に出会った僕は、彼女にさっそく尋ねてみたんですね。「あなたにとって、Merryとはなんですか?」って。するとね、「私には、Merryなんてないわ」って言うんです。「生まれてこのかた、笑ったことなんてない」って。 生まれてから一度も笑ったことがない...

でも、シャッターを切るうちに笑顔になってくれてね。それで、撮影した写真にMerryについてのメッセージを書いてもらったんです。そこに「あなたよ。」と書いてあった。「私にはMerryなことなんて、これまで一度もなかった。でも水谷さん、あなたがいま、こうして私に会いにきてくれたことはMerryかな。」って、言ってくれたんですね。

わざわざ遠いところから来てくれたとか、そんなんじゃなくて、自分を解放してくれた、と言うんですね。そして、連鎖的にそういうことを言う人が増えてくるんです。「水谷さんに会えたことが、Merryだ。」と言う人が。人を幸せな気分にしてあげたり、楽しくしてあげたり。僕は、これこそがデザインだと思いました。僕はグラフィックデザイナーとして、成功を収めたように見られがちだったけど、僕にとっては、全然成功ではなかったことがわかったんです。「Merryはあなたよ」と言われた瞬間、すべてが吹き飛んだ。それくらい感動しました。

笑うような子ではなかったのに...

それは、うれしいですね

ほかにも、ロシアのクレムリンでこんなことがありました。

おばあさんと、3歳のお孫さんがいてね。公園でふたりで座っているんです。僕はちょっと気になったので、「Merryやってみる?」って、子供に話しかけたんです。そしたら「やる」と。僕のカメラってストロボが発光するんですよ。それで、パシャパシゃと撮ったら、子供がひきつけを起こしたような顔をするんですね。

どうしたんでしょうか

3枚撮ったんですが、一枚目はひきつけを起こしたような感じで2枚目はそれがひどくなっている。3枚目はもう大変な表情になっているんです。それはそれでいい写真だったんだけど、これはまずいなと思いました。 でも、大丈夫そうだったので、その写真をおばあちゃんに渡しました。どんなメッセージを書いてくれるのかなぁって思いながらね。そしたら、彼女が教えてくれました。実はその子、ダウン症だったんですよ。

それでひきつけを起こしたような表情になっていたと

そうです。ところがね、そのおばあちゃんが書いてくれたのはね、今日この子が、このプロジェクトに参加してくれたことがなによりもうれしい、ということだったんです。

この子がプロジェクトに参加して、そして笑ってくれたことが最高のMerryだと。いままでこういうことに参加するような子ではなかったし、ましてや笑うような子でもなかったらしいんですね。だから、これが最高のMerryだ、と言うんです。そんなこと言われたら...どうですか?うれしくないですか!

Word of power

●最悪のところへ、連れて行ってくれ
●あなたが、私のMerryよ
●そんなこと言われたら、うれしくないですか?

Merryを探して世界をめぐり、自分が選んだ道に間違いがなかったことを確信した水谷さんは、さらに大きくて、とってもMerryな野望を胸に抱きます。それは、人類67億人をMerryで包むこと。大風呂敷を広げているように聞こえますか? それとも、グラフィックデザインにその力があることを、ちょっぴりでも感じることができますか?

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