vol.026 水谷 孝次 / Mizutani Koji
水谷事務所代表 URL:http://www.merryproject.com/
1951年3月
名古屋市で生まれる。
1977年
日本デザインセンター
入社。
1982年
東京ADC賞(東京アートディレクターズクラブ)ポスター公告電通賞
1983年
水谷事務所設立。
2000年1月
ラフォーレミュージアム原宿とラフォーレ原宿館内を会場にした写真&ポスター展「Merry at Laforet 2000」を開催。
2001年4月
日英同盟結成100年にあたるこの年、ロンドンのセルフリッジ百貨店で行われた「Merry Tokyo Life」のメイン企画に抜擢される。
2001年9月
阪神大震災から6年。震災時に寄せられた支援に対する感謝の気持ちを、笑顔で発信する「Merry in KOBE 2001」を開催。
2003年2月
9.11から1年後のニューヨークでMerryを撮影。六本木とニューヨークをつなぐインスタレーションが開催された。
2005年3月
愛・地球博にて
「MERRY EXPO」開催。
こんにちは!テトルの本村拓人です!! 特別編としてお届けしていたアートディレクター水谷孝次さんのインタビューもいよいよ今号で最終回です。 あらゆる苦労をいとわなかった水谷さんの思いは、ついに中国共産党を動かすことに成功します。北京オリンピックの開会式、そのクライマックスで、大きな輝く地球のまわりにMerryなたくさんの笑顔が咲き乱れました。 この光景を目にした水谷さんの感激は、とても想像できるものではないでしょう。 また、北京オリンピックと平行して六本木ヒルズでは「Merry Garden!」を開催。そこでは、卓越したアートディレクターとしてのセンスのほかに、資金繰りのために起業家のようなアイデアとフットワークも駆使します。 インタビューの終わりに水谷さんはこう語ってくれました。
「何かを成し遂げることは、とても難しいことですが、ありとあらゆる方法を考えて実践すればなんとかなる。情熱を持って臨めば、やろうと思うことは、ほぼできる」と。
この笑顔は世界でもっとも美しい。ありがとう謝謝!
オリンピック開会式で写真がどのように使われるのか、水谷さんは最後まで知らなかったんですか?
そうですね。開会式を観て、初めて知りました。ずっと中国の歴史絵巻が展開されて、そしてクライマックスのとてもいいところで使われていましたよね。
美しい歌が流れる中、中央に大きな地球があり、その周囲で笑顔をプリントした傘がいっせいに開いてね。感動したよね。とても感動した。映像を観るまではどこかで、本当に使われるのかどうかわからないと、心配だった部分もありますし。
ちなみに、水谷さんはオリンピックの件がなんらかの収入を得たのでしょうか。
ないですよ。2メートルのデータをたくさん作るのにお金も時間もかかったこともあり、出費はすごかったですが。でも、そんなの関係ないんですよ。収入はないけど、手紙やDVDはもらいましたし。イーモウさんからの手紙には「オリンピックは大成功だった。笑顔を提供してくれてありがとう。」と書いてありました。
「この笑顔は世界でもっとも美しい。ありがとう、謝謝!」ってね。それからDVDはオープニングセレモニーを編集した関係者用のもの。
こちらはイーモウさんのサインとメッセージ入り。あと、笑顔をプリントした傘も送ってもらえるかもしれません(笑)。
しかし、情熱とは本当にすばらしいものですね
相手が中国共産党であろうとも、どんな難しい人であろうとも、気持ちや思いはちゃんと伝わります。僕はこれまでずっとそう信じてきたし、今回の件でも、やっぱりね、と思いました。中国で、彼らはしきりにこう言ってました。
「水谷さんの情熱には、まいった」と。情熱があれば中国だって動かせるんですよ。いま冷静に考えると、共産党のシステムを崩すなんて、容易なことじゃなかったなとは思います。でも、これこそがコミュニケーションですよね!
変な話ですが、地球が真ん中にあって、そのまわりを笑顔が囲んでいるというのは、Merry Projectのウェブサイトを見ていただけるとわかるのですが、僕のアイデアそのままなんですね。 いろんな闘いがありましたが、開会式のあの場面だけは、僕がアートディレクターだったんじゃないかなって思っているんです(笑)
うまくいけば、六本木と北京をつなぐことができるかもしれない
北京オリンピックと併せて六本木ヒルズでは「Merry Garden!」が開催されました。こちらは、どういった経緯でスタートすることになったんですか?
本当にたまたまなんですが、今年(2008年)の2月に森美術館で森社長に会ったんですよ。そのときに「水谷さん、またヒルズでMerryやんない?」って言われて。六本木ヒルズでは、以前にもMerry Projectをやったことがありましてね。
それで、会場をただで使わせてくれると言うんですよ。入り口のメトロハットをただで使って良いよ、と。北京オリンピックにMerry Projectの笑顔を持ち込もうとしていた僕は、これはチャンスだと思ったのね。うまくいけば、北京と六本木をつなげることができるかもしれない。子供たちの笑顔が広がるのはすばらしいことですね。
ただね、場所はただでいいけど、展示費用は水谷さんがもってね、と言われまして。僕のやりたいように笑顔を展示すると、おそらく一千万くらい費用がかかりそうな見通しになったんです。これは困ったぞと思いましてね。前に愛知万博の「愛・地球博」で「Merry EXPO」をやったときには、ドコモとパナソニックと朝日グループと万博協会がスポンサーになってくれたんです。
今回はオリンピックにからめたいと思っていたのですが、さまざまな利権のからみがあって掲げることができなかった。当然、スポンサーもついてくれなかったわけです。オリンピックのスポンサーを取り仕切っている広告代理店に連絡しても反応なし。そんなとき、富裕層の会員向けにビジネスを展開する企業が名乗りを上げてくれたのですが......。
なんとなくMerryのコンセプトからずれる気がしますね
そうですよね。ありがたいお話だったんですが。それで困っているときに、岐阜県の郡上市がMerryをからめた何かができないか、と話を持ってきてくれたんです。そこで僕は考えました。六本木ヒルズでやるMerryイベントに郡上市の子供たちの笑顔を持ってきて、郡上市ではMerryを絡めたエコな森作りをする。森作りの様子も六本木ヒルズに持ってきてはどうかな、と。
ちょうど港区で、エコプラザのオープンが予定されていたので、港区に話をもちかけてみたら、こちらもOKがでたんですね。これは本当に偶然なんですけど、ちょうど同じタイミングで、郡上市と港区が姉妹都市になっていたこともありましてね。
いろんなことが情熱やタイミングで上手に動いていますね!
だからといって、郡上市も港区もそれほどお金を出してくれたわけじゃなかったんですけど、イベントを実行することで市民の方からのお金が集まったりスポンサーをつけることができました。
一連のイベントを「Merry Garden!」つまり、世界にMerryの花を咲かせよう!というコンセプトにしてね。広範囲にわたって行政と企業と市民をまきこんだ、なかなかいいシステムができたんじゃないかって思っています。
行政と企業と市民のつながりを作るソーシャルエンタテインメント
アートディレクターとしての活動だけでなく、ビジネススキルの高さも感じますね
六本木ヒルズは場所だけを貸してくれたわけですが、この「Merry Garden!」は取材ものも含めて、130を越える媒体に掲載されました。広告予算を使って、それだけの宣伝をしようとすれば、いったいいくらかかるのかわかりません。しかもやっていることが笑顔やエコのイベントでしょ? 六本木ヒルズはご機嫌でね。「大成功です!」って言ってくれた。
億単位の宣伝費が必要だったでしょうね
こういった仕組み作りから考えること。これこそ新しいデザインだと思いますね。社会において、行政と企業と市民のつながりを作る、ソーシャルエンタテインメント、ソーシャルコミュニケーションですよ。
町起こしという意味で、郡上市にMerryの森を作り、六本木ヒルズにはMerryの森の一部を持って来つつ自然に触れられるワークショップを展開。そして港区のエコプラザでもワークショップを開いてね。
なるほど。よくひとりで考えて、いろいろ行動できるものですね
これからね、郡上市では、Merryを利用した本格的な町起こしをはじめる予定なんです。Merryな遊歩道を造ったり、Merryな農場を作ったり、東京ドームの何倍もの土地を使って自然体験ができるような場所にする予定。まさに大開発を行うんです。
どのようなことになるのか楽しみですね。水谷さんなら、必ず成し遂げるに違いありませんし。
これらの一連の出来事は、たった一行のニュース記事からはじまったんです。イーモウさんが、北京オリンピックの開会式で子供の笑顔を使いたいと思っているという、そのたった一行の記事。そこから北京オリンピックでの笑顔のインスタレーションが実現し、ヒルズと郡上市と港区をつなぐMerryが開催され、次は町起こしなどに展開している。
でもね、僕がこの記事を気にもとめず、なんのアクションも起こさなければ、なにひとつ実現しなかったと大むんですね。それを踏まえて、僕が若いクリエイターのみなさんに言いたいことは、待っていてもなにもはじまらないよってこと。
頼まれ仕事をこなしているだけはいけないと。
だって広告の仕事だって、いま減ってきてますからね。バブルの頃はそれはよかったですよ。大量に入ってくる仕事をごまかしながらこなしていけば、わんさかお金は入ってきました。でも、もうそんなごまかしはきかなくなってしまったし、なによりもパイが少ない。そうであれば、自分で小さな火を見つけたらそれを大きくする努力をしないと。
なるほど。難しそうですが、そうも言ってられない状況であると。
厳しいですよね。でも、どんなことでも情熱を持って臨めばなんとかなる。正面突破でもいいし、裏道を使っても良いし、泣き落としでもいいし、方法はいろいろあると思うんですよ。成し遂げることはどんなことであれ、簡単ではないですけど、前に進まないと。
今回僕が立ち向かったのは、中国であり、共産党であり、オリンピックです。もう、どうしていいのかわからない。まわりのみんなも、止めておきなさい、止めておきなさい、と言う。でも、僕にはあるんですよ、なんというか、自信がある。強い気持ち、情熱を持てば、ほぼいける。
最終的に、中国にも六本木にも喜んでもらっているところが立派ですね。
やるべきだと思ってやってよかったですよね。リスクもあるし、損もある。でも、それを言ったら、たとえば遣唐使や遣隋使だって中国にわたらなかったはずでしょう?
そしたらいまの文化はなかったわけです。彼らにしても、とてつもない情熱があったからこそ、命をかけて中国にわたった。それだけは、伝えておきたいですね。
●収入はないけど、そんなの関係ないですよ
●たった一行のニュース記事からすべてがはじまった
●強い気持ち、情熱を持てば、ほぼいける
今号で水谷氏のインタビューは終了です。
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Wrote 2009.01.13 << 前のインタービュー | 次のインタービュー >>