vol.010 玉田雅己

NPOバイリンガル・バイカルチュラルろう教育センター (BBEDろう教育センター)代表理事  URL:http://www.bbed.org/

空中戦と地上戦での募金活動を開始!

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明晴学園設立の予定は、2008年4月。玉田夫妻をはじめとするバイリンガル・バイカルチュラルろう教育センターのメンバーは、設立資金4500万円を集めるために奔走する日々を迎えた。
「みなさんから多数の寄付をいただいたおかげで、目標金額は無事に突破することができました。マスメディアの効果は大きかったように思いますね。朝日新聞の夕刊に取り上げていただいたり、テレビで放送いただいたこともありました。応援メッセージもたくさんいただきましたよ。寄付金にしてもメッセージにしても、それぞれにその人なりの想いやドラマが込められていて、大切にしなければいけないなと感じました」。
寄付金は一口10万円から。ハードルは決して低くなかった。募金の下弦金額の設定にはかなり迷った、と玉田は言う。「仮に千円や1万円でやって数が増えてしまうと、事務的な手間が大きくなりすぎてしまうんです。それで10万円に設定しました。寄付はしたいけど金額が高すぎるという方の中には、まわりに声をかけてくださって10万円にしてくれた方もおりました」。個人からだけでなく、企業から寄付金が届けられるケースもあった。お金を集めるには、共感が持てる活動を行うことが前提にはなるが、活動の内容を上手に伝えていくことも重要だ。バイリンガル・バイカルチュラルろう教育センターの場合、マスメディアに乗ったことも大きかったが、「インターネットのブログでは、常に寄付金の集まり具合を報告していました。チラシをポスティングしたら、その情報も掲載する。つまり、チラシを見てブログにアクセスしてくれた方に、ようこそいらっしゃいました、と、すぐに情報が届くようにしたんです。メディアで取り上げられたときも同様です。やっぱりテレビや新聞で報道されると、ネットで調べてくださる方がいらっしゃいますから、そういう方にちゃんとメッセージが届くように心がけました」。このようなウェブを効果的に使ったメ空中戦モのほかに、より直接的なメ地上戦モとなる街頭に立った募金活動も行った。
ひとつ忘れてはならないのは、玉田はこれらの活動を、会社員という肩書きを持ちながら継続させたことだ。家庭や子供になにか問題を抱えたとき、会社勤めの男性の多くは仕事を言い訳に、関わりを持たないようにすることができる。もちろん、言い訳というわけでもなく、本当に忙しい場合もあるだろう。
「私もね、宙の耳が聞こえないとわかった当初は、仕事に逃げようと思いました。でも、そうすると家族の関係性が希薄になり、妻との関係も冷え込んで、これではいけないって感じたんです。それで、できるだけ会社から早く帰るように切り替えたのですが、やっぱり会社での居心地は少し悪くなりました。仕事を辞めるわけにもいきませんでしたから、バランスを取りながら活動したという感じですね」。

8年にも及ぶ活動...まだまだ玉田は役目を果たしたとは考えていない。

「ろう者を取り巻く環境を、縦と横、ふたつのラインから改善していきたいですね。縦のラインとは、幼児期から就職状況の改善まで、ということです。明晴学園は小学校なのですが、では彼らが卒業したら、今度はどこへ行けばいいのかというあらたな問題が発生しますよね。それに対応するため、中学を作らないといけません。それから乳児相談も重要ですね。私のときもそうだったのですが、子供がろう児だとわかると、医者からはまず、聴覚口話法のろう学校を教えられることになります。親は気が動転していますから、ほかの選択肢を考えたり、可能性を探ったりする余裕がないんですね。医者が言うことなら間違いないだろうと、子どもを聴覚口話法のろう学校へ入れることになってしまう。だから、この段階で選択できるような環境を作りたいですね。就職先も、ろう者の能力をもっと理解してもらえば、ふつうにあっていいんじゃないかと思うんですよね。いま、多くの仕事でパソコンが使われているわけで、電話を使わずに用件を済ませることだって多いですよね。(カット→ろう者は文字によるコミュニケーションに慣れていますから、文章で意志を伝えることが非常に上手です。)また、ろう者は意志を簡潔に伝えるためのコミュニケーション術にも優れているんですね。語り口が非常にロジカルなんです。アメリカ的と言うのでしょうかね。『私には言いたいことが3つあります。ひとつ目は...』、なんて話し方をするんですよ。この話し方は、手話言語の特徴のようです。だから、プレゼンなどは上手だと思います。それから横のラインとは、活動を全国的に広めたい、ということですね。日本のどこでろう児が生まれても、希望すれば日本手話での教育を受けられるようにしたいんです。また、子どもがろう児であることを知った親御さんは精神的なダメージを受けますから、そういった方々のケアができる機関も作りたいと考えています。」

エピローグ

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「あーあ、嫌だなぁ。もうすぐ学校が夏休みになるんだ。」明晴学園に通う子どもが訴えてきた。玉田はその言葉に目を細める。玉田が関わりを持った大人のろう者たちは口を揃えて、「学校で楽しかったことなんて、何一つありませんでした」と語っていた。悲しい言葉だった。学校が楽しいところだと少しでも感じてほしい。そんな気持ちから明晴学園設立に奔走した玉田にとって、子どもたちの明るい笑顔はなによりもうれしかった。
開校式の日、忙しく駆け回った玉田は、時間に追い立てられ設立の喜びにゆっくり浸る暇などなかった。それでも、体育館の壇上で自分たちの学校ができた喜びを発表する子どもたちの誇らしげな表情には胸が熱くなった。「フリースクール時代は活動場所の確保にいつも悩んでいました。品川区の協力を得てからは、一般校の空き教室を2.5部屋お借りすることができたのですが、遠慮しながら使わせてもらっていたんですね。だから、明晴学園ができて自分たちの体育館を見ても、『ここ、使っていいの?』と遠慮がちなんです。今では、休み時間になるとみんなダッシュで体育館に遊びに行くそうです。作った甲斐がありました。」
玉田は先日、勤め先のNTTデータから、社長賞を受賞した。めざましい活躍をして会社に貢献した社員に贈られる社長賞だが、玉田の受賞理由は仕事上の業績ではなく明晴学園を設立したことにたいするものだった。
「うちの社内には社内SNSがあって、みんながコミュニケーションできるようになっています。私のメお友達モには、うちの社長などにも加わっていただいておりまして。直接お会いする機会はほとんどないのですが、SNSを通じて、活動のアピールはしていました。社内で手話を必要とする案件が出てきたら積極的に手をあげるなど、手話が仕事で役立つこともよくあるんですよ」。
なんとも気の利いた社長賞。──受賞した年、玉田は課長に昇進した。

Word of power

玉田氏のインタビューは以上で終了です。

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