vol.008 玉田雅己

NPOバイリンガル・バイカルチュラルろう教育センター (BBEDろう教育センター)代表理事  URL:http://www.bbed.org/

言葉が通じない世界を生きるということ

日本手話しかないと思った玉田は、手話を教えてくれる学校や団体を探したがなかなか見つからなかった。たとえ見つかったとしても、当時は手話ブームが起きており、どこも満員。そして2000年8月、思いを同じくする親たちと「全国ろう児を持つ親の会」を立ち上げた。
「『全国難聴児を持つ親の会』というのはあったのですが、そちらは聴覚口話法を推奨する団体だったので、新しい団体を立ち上げることにしたんです。この団体を通じてたくさんのろう者と触れ合う機会が生まれ、いろいろなことに気づかされました。たとえば、ろう者たちと潮干狩りに行ったときのことです。
そのとき初めて耳が聴こえるのは私だけという状況を体験したのですが、当時の私は、まだ十分に手話が分かっておらず集まった皆さんが何を話しているのかさっぱりわからなかったのです。『そうか。宙がこれから生きて行くのはこのような世界なのか』。私はそのとき初めて言葉が通じないという意味がわかりました。また、「全国ろう児を持つ親の会」の方針を決める会議を行ったときには、手話に取り組む覚悟を学ばせてもらいました。その頃の私は、手話を学びはじめて6、7ヵ月くらいだったのですが、会議の内容が難しかったため、『会議のときには通訳が必要かな』とポロっと言ってしまったんです。すると参加者の1人に烈火のごとく手話で怒られました。『あなたは自分の息子と話すときにも通訳を呼ぶつもりなのか!』と、その方は怒っていたのですが、今度は手話が早すぎて読み取れない。そこで『もう少しゆっくり...』とお願いをしたら『これが私の手話です!』と、さらに怒られました。表情や雰囲気で怒っていることはわかるのですが、どうして怒ってるのかはわかりません。私はその激しさに、ただただ固まっているばかりでした」。

違うものを提案したいなら、新しく作り出せばいい

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「全国ろう児を持つ親の会」などの活動を通じてろう者との交流を広げるうちに、玉田は若いろう者たちが立ち上げた日本手話でろう児を教育するフリースクール、龍の子学園と出会った。龍の子学園は、1999年4月に活動をはじめたばかりの小さな団体だった。宙くんの耳が聞こえないことがわかったのは、その年の秋のこと。当時、龍の子学園の活動ペースは月に一度だったが、玉田は参加を決め、宙くんを乳児クラスに通わせることにした。保護者たちの支援によって、フリースクールの活動は月に一度から週に一度に、そして毎日のようにクラスが開かれるようになった。
「活動が活発になったのはよかったのですが、そうすると今度は活動にかかるお金も増えてきてしまったんです。すでにお話したとおり日本手話で教えてくれるところは全国でも数が限られていますから、遠方から帰ってくる親御さんもいらっしゃるんですね。そうなると交通費だけでもばかにならないわけです。お金の問題で少なからず悩んでいたとき、フリーランスで放送作家をやっている妻のつてで、東京財団前会長の日下公人さんにお会いする機会がありました。日下さんに相談してみると『旧ソフト化経済センターの町田洋次元理事長に会いなさい』と、おっしゃいました」。玉田がさっそく町田氏の元を訪ねると、「NPO法人を作って活動すればどうですか?」と簡潔な答えが返ってきた。NPO 法人化したからといって、資金繰りがうまくいくわけではない。しかし、ある種の社会的信用が生まれ、寄付金を募ったり、助成金の申請を行うといった活動はしやすくなるはずだ。町田氏による NPO 法人化の提案には、既存のものに対抗する新しい軸を作れ、という意図が込められていた。ろう児を日本手話で教育する正式な団体がないのなら新しく作ってしまえばいいというのである。玉田はこの提案に乗ることにした。
「既存のものを変えるには、とてつもないエネルギーが必要なんです。反対意見と戦わなくてはいけないわけですからね。もちろん新しい対抗軸を作るには、一からはじめなくてはならないわけですから簡単ではありませんが、やろうと思えばできます。後は、ろう児やその親御さんが、聴覚口話法と手話、どちらを選ぶのかというだけの問題です。」

Word of power

玉田氏のインタビュー二号は以上で終了です。

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